2014年4月30日水曜日

スモールビジネスは、なぜ、成功しないのか?(8) 幼年期の経営者、「職人」サラの過ち マイケル・E・ガーバーより

スモールビジネスは、
なぜ、成功しないのか?(8)
幼年期の経営者、「職人」サラの過ち
マイケル・E・ガーバーより



私の話を聞いたサラは、遠くを見つめたままうつむいて、しばらく何もしゃべらなかった。

私は、これまでに多くの経営者と接する中で、こんな光景を何度となく見てきた。

経営者にとって、倒産の予見は、医者から余命宣告されたのと同じように感じるものだ。そして、サラもそうだったのかも知れない。

しかし、私には、不思議とサラは最後まで頑張り通すだろうという直感があった。

そして、サラは、ようやく重たい口を開いた。

「私には、よくわからないわ。私が職人タイプだということは分かったわ。でも、どうして、職人だとだめなの? 以前の私は仕事が大好きだったし、雑用に追われなければ、今でも仕事は大好きなはずよ。」

サラの反応は、職人タイプの経営者によく見られる反応だった。現実は理解したが、受け入れることができないのだ。

受け入れてしまうと、今までの自分の人生を否定することになってしまうと勘違いするのである。

そして、私は、話を続けた。

「そこがポイントなんだよ。職人タイプであること自体は、何も悪くはない。でも、自分で事業を始めてしまったことが、間違えの始まりだったんだ。

職人から経営者になった人は、物事を見る時に、高い視点から全体を俯瞰してから詳細に見ていこうとはせず、まわりを見渡して見上げることで全体を理解しようとする。

つまり、戦略的視点で経営判断をするのではなく、戦術的な視点だけで経営判断をしてしまう。

だから、やるべき仕事が分かっていて、その方法も分かっていると思っているから、直ぐに思いついた方法で仕事に取りかかろうとする。

でも、実際にはじめてみると、現実は、自分がイメージしたものと違い、問題の本質が違うことに気づく。

サラ、はっきりと言うが、職人タイプの人は、他の人が経営する会社で働くべきであって、決して自分で会社を立ち上げるべきではない。

なぜなら、君も、一日中、パイを焼いたり、電話をしたりと、いろいろなことをやって忙しくしているけど、そういった職人的な仕事だけに忙殺されるだけで、一番大切な戦略的な仕事、起業家的な仕事を置き去りにしていないかな?

でも、そういう仕事こそが、君の事業の将来を切り開いてくれる。

職人として、すごい能力を発揮することはいいけど、それでも、その能力も、直ぐに限界が来る。

一日中、「職人」の人格だけで働いて、経営にとって、もっと大切な「マネージャー」や「起業家」の人格を否定するかのようにしていると、気が付いた時には、もう、手遅れになってしまう。

そして、毎日、クレームも続くようになり、雑用が増えるばかりで、そのストレスから、もう、仕事そのものが嫌になってしまう。

それが、どれだけひどい気分になるかわかるだろ?

君が職人という人格だけで、事業を経営しようとする限り、何度やっても同じ結果になってしまう。」

ここまで話を聞いたサラは、何かに気付いたのか、これまでとは別の方法について考え始めたようだった。

「でも、他人に仕事を任せても上手く行くなんて、想像できないわ。だって、これまでは、いつも私がいなければいけなかったもの。

私がお店にいなければ、お客さんはどこか別の店に行ってしまうわ。この問題を解決することなんて、できっこないと思うのよ。」

サラは、心に、ようやく陽がさしてきたようだった。

「お店の経営が、君の才能や人柄、そして、やる気に依存しているなら、きみがいなくなれば、お客さんもどこか、他の店に行ってしまう。そうだよね?」

サラは、大きくうなずいた。

「でも、それは、君は、君の能力や時間を、サービスとして切り売りしているだけなんだ。

つまり、企業が販売する製品は、商品とサービスをあわせて製品として売っているのだから、君は、君がお店にいないと売れない製品を自分から望んで作ってしまい、そのつけを自分でとっているだけなんだ。

本当なら、君がいなくても、お客さんが満足して買ってくれる製品を作って販売すべきなんだ。

そして、そんなことができる、お店の仕組みをつくるのが経営なんだよ。」

すると、サラは、こんな質問をした。

「蒸し返すつもりはないんだけど、もし、私が自分で事業を立ち上げても、職人のような仕事をしたければ、どうなるの? もし、私が職人以外の仕事をやりたくないとしたら?」

私は、本人のためにきっぱりと答えることにした。

「それなら、できるだけ早めに起業なんかやめてしまうことだね。なぜなら、会社やお店を経営する限り、「起業家」と「マネージャー」の人格を経営者が持ち合わせることは必要不可欠なんだ。

本気で成功したいと思うなら、それを受け入れるしか生き残る道はないんだ。

結局のところ、君が事業を立ち上げた目的が、誰かに雇われていた時と同じ考え方で行動して、もっとお金を稼いで自由な時間を増やしたい、ということなら、それは、単に子供じみた叶わないわがままを言っているだけで、上手く行くはずもない。」

サラは、納得していない様子だった。私は、一息してから話を続けた。

「サラ、起業して成功するということは、誰かに雇われて働くことより、はるかに難しい。

雇われている時は、3つの人格のうちのどれか1つを中心に働いていればよかったけど、起業するということは、自分が経営者になるということだ。

つまり、常に、3つの人格を会社の状況に応じたバランスで使いこなす必要があるんだ。

そのためには、この3つの人格の能力を会社務めしていた時よりも、はるかに伸ばさなければならないし、成長させる方法を学ばないといけないんだ。

もし、私の言うことが信じられないのなら、ためしに、職人の立場を離れて、自分の起業家とマネージャーの能力を引き出す場面をつくってごらん。

やればわかるけど、そうすれば、意外と会社をつくる仕事は、君が想像することと違って、職人として働くよりもはるかに面白い創造的な仕事で、会社の目的や将来を明確にして働くことは、楽しいことだと分かるはずだ。」

サラに笑顔が戻って来た。「その方法が知りたいわ」。

「サラ、まずは、どうすれば?という方法を知りたければ、なぜ、そう思うのか?という理由を考えよう。そうすれば、自ずと答えは分かるようになる。

では、そのために、スモールビジネスの2段階目の時期の青年期を見てみよう」。




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2014年4月29日火曜日

スモールビジネスは、 なぜ、成功しないのか?(7) 「スモールビジネスの3つの段階」

スモールビジネスは、
なぜ、成功しないのか?(7)
「スモールビジネスの3つの段階」
マイケル・E・ガーバーより





スモールビジネスが成長する段階には、「幼年期」、「青年期」、「成熟期」の3つの段階がある。

では、早速、この段階について見て行こう。



「幼年期」職人の時代

スモールビジネスが「幼年期」の段階にある時は、そのスモールビジネスは、「職人」が経営者として、まるで、大道芸人の曲芸のような才能を発揮して経営がされる。

まず、スモールビジネスの「幼年期」のはじまりは、こうだ。

あなたは、独立し、会社に勤めていた頃の上司はいなくなった。ついに、職人としての自由を勝ち取ったのだ!

自分のやりたいことが誰にも邪魔されずにできる。将来はバラ色に見え、その可能性に胸が躍る気持ちだ。

まるで、夏休みに入った時の子供のように、手に入れた自由に胸を膨らませている。

独立した当初は、何も考える必要はない。職人として仕事をこなすことにかけては、あなたはベテランだ。

だから、スモールビジネスをたちあげて間もない幼年期の間は、あなたは喜んで働こうとする。

こうやって、一日、十時間、十二時間、十四時間、そして、一日も休むことなく一週間働くようになる。

他の事をしている時も、スモールビジネスのことが頭から離れなくなり、仕事を中心に生活が回り始める。

必要となれば、お金や労力を惜しみなく注ぎ込んでしまう。こうやって、あなたは仕事に人生を消耗し始めることになる。

あなたの仕事は商品を作るだけではない。マーケティング、仕入れ、販売、発送、納品、掃除、資金繰りなどの仕事もこなさなければならない。

これだけの仕事をミスもせずにこなしているあなたは、まるで、大道芸人のような才能を発揮している。

スモールビジネスの幼年期を見分けるのは、簡単である。なぜなら、オーナーが事業そのものだ。

ジョーの床屋、トミー印刷ショップ、メアリー会計事務所、スミス内科医院、マーク美容室。

こうすれば、お客さんも、あなたがこの店のオーナーだということが、すぐにわかる。

運が良ければ、すぐにでもあなたの努力は報われる。

あなたの元に来るお客さんは、「ジョーのカットは、イカスぜ!」、「トミーの印刷は綺麗だ!」、「メアリーは、経営のアドバイスまでしてくれる!」、「スミスは、最高のドクターだ!」、「マークのメイクで、モテモテよ!」。

お客さんは、もう、あなたの会社の熱烈なファンだ。

ところが、ある日を境に変化が起こる。仕事量が増えて、仕事がこなせなくなり、クレームが絶えなくなるのだ。

「ジョーの奴、俺は中学生じゃ、ねぇーぞ!」、「トミーったら、私はナンシーよ! マーガレットって誰なのよ!」、「メアリーのせいで、倒産するところだったわ!」、「スミス、俺が欲しいのは診断書だ!」、「マークのせいで、ハロウィンって、あだ名までつけられたわ! 最悪よ!」。

こうして、あなたは、能力の限界が事業の限界であることに気づく。どうやったって、できっこない!

だっ嫌いな上司から逃げるために起業したのに、今度は事業そのものが上司としてあなたを管理するという皮肉な状況に陥ってしまう。

経営者が、今までのやり方では事業が続けられないと気づいた時に、幼年期は終わりを迎える。

生き残るためには、変化しなければならない。

この変化に直面した時、ほとんどの事業は倒産に追い込まれることになる。そして、生き残ったスモールビジネスだけが青年期を迎えるのである。




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2014年4月28日月曜日

スモールビジネスは、
なぜ、成功しないのか?(6)
「事業が成長する3つの段階」
マイケル・E・ガーバーより






人が成長するように、事業も成長することが当然と思われているようだ。しかし、それは真実ではない。

成長には、変化を伴う。従って、成長を続けられる事業は、本当にごくわずかなのである。

ほとんどの事業は、成長どころか、毎年、40万件以上もの会社が廃業することを見れば、その答えは、明らかである。

では、なぜ、ほとんどのスモールビジネスは、成長できないのか?

それは、スモールビジネスを始める人のほとんどが、職人の人格を最優先させるからなのである。

そして、自分の中にある職人の人格が会社を経営すれば、先に話した通り、会社が成長するはずなどないのである。

職人は、誰かのために働くことが嫌いだ。職人にとって仕事とは、自分が好きなことをやることで、誰かのために働くことではない。

そして、上司から管理されることを最も嫌う。なぜなら、管理は、職人から自由を奪う以外の何者でもない。

専門性の高い能力を身に着けて起業した職人は、せっかく会社をやめて自由になったのだから、今更、誰からも束縛を受けたくはないと思っているのだ。

職人は、やっと手に入れた束の間の自由を手放したくはないのだ。そして、変化を伴う成長など、したくないのだ。

変化のないまま、ずっと、自分が信じる桃源郷で遊んでいたいだけなのだ。

こんな職人が会社を経営すれば、行く末は、本人以外の誰の目にも明らかである。

ところが、ごくわずかだが、社会の変化を受け入れ、どんどん成長するスモールビジネスも存在する。

その違いは何か?

その違いを考える前に、まずは、事業が成長する様子を、「幼年期」、「青年期」、「成熟期」の三段階に分けて考える必要がある。

事業には、この3つの段階があることを知り、各段階での経営者の心理を理解できれば、あなたは、必ず、事業を成功させるヒントを掴むことができる。

2014年4月27日日曜日

スモールビジネスは、なぜ、成功しないのか?(5) 「優れた経営者の3つの人格」 マイケル・E・ガーバーより

スモールビジネスは、なぜ、成功しないのか?(5)
「優れた経営者の3つの人格」

マイケル・E・ガーバーより





優れた経営者は、「起業家」、「マネージャー」、「職人」の3つの人格をあわせ持っている。

そして、この3つの人格のバランスが取れた時に驚くような能力を発揮するのである。

「起業家」は、新しい世界を切り開こうとし、「マネージャー」は、事業の基礎を固めてくれる。そして、「職人」は、専門分野で力を発揮してくれる。

それぞれの人格が最高の仕事をすることで、全体として最高の結果を出せるのである。

しかし、残念なことに、私の経験から言えば、起業した人の中で三つの人格をバランスよく備えている人は、ほとんどいない。

それどころか、典型的なスモールビジネスの経営者は、10%が起業家タイプで、20%がマネージャータイプで、70%が職人タイプである。

そして、スモールビジネスの現実は、この3つの人格のうち、「起業家」は、高い目標を揚げ、それを知った「マネージャー」は、起業家の暴走を引きとめようとする。この2つの人格が争いだすと、いつのまにか「職人」が会社の主導権を握るのである。

職人が会社の主導権をとる目的は、会社の目標を実現するためではない。

職人の目的は、他の2つの人格から主導権を奪い、自分がやりたいことだけに集中するためだ。

職人は、必要なことをするのではなく、やりたいことをする。職人は、そもそも、会社と遊び場の区別がないのだ。

職人にとって、会社とは、働く場所ではなく、自分が好きなことをするための手ごろな場所にすぎないのである。

だから、職人にとって、会社で自分が主導権を握っていることは理想なのだ。

しかし、事業全体から見れば、それは、最悪の結果を招く。なぜなら、間違った人物が主導権を握っているからである。

会社は、決して、職人に主導権を握らせてはならないのだ!

では、スモールビジネスをよく理解するためにも、それぞれの人格の違いを見てみよう。


「起業家」の人格

起業家とは、将来のビジョンを持ち、周囲の人達を巻き込みながら、変化を引き起こす人物である。

そして、起業家は、未来に住む人でもある。決して、過去や現在にとらわれることはない。「次に何が起きるのだろう?」、「どうすれば実現できるのだろう?」と、いった問題を考える時に幸福を感じる。

起業家は革新者であり、偉大な戦略家である。そして、新しい市場を創り出すための方法を発明する。

起業家の人格とは、私たちの中の創造的な部分である。

未知の分野への取り組み、時代を先取りした行動、わずかな可能性への挑戦、こんな無理難題に対して最高の能力を発揮する。

しかし、起業家は新しいことに取り組むことは得意でも、きっちりと「管理」することが苦手だ。

起業家は、いわば空想の世界に住む人なので、現実社会の出来事や対人関係は、誰かのサポートが必要になる。

起業家は、周りの人を置き去りにしたまま、いつのまにか自分の世界に入り込む。しかし、一緒に仕事をする以上、周りの人を置き去りにするわけにはいかない。自分と同じレベルまで引き上げなければならないのだ。


「マネージャー」の人格

マネージャーとは、管理が得意な実務家である。マネージャーがいなければ、計画さえ立てられずに、会社はたちまち大混乱に陥る。

起業家が未来に生きる人格なら、マネージャーは過去に生きる人格だ。起業家は変化を好むが、マネージャーは変化を嫌う。

目の前の出来事に対しても、起業家はチャンスを探すが、マネージャーは問題点を探す。

マネージャーは家を建てれば、その家に住み続けようとするが、起業家は、家を建てると、直ぐに次の家を建てる計画を始める。

つまり、マネージャーがいなければ事業も社会も成り立たないが、起業家がいなければ、革新も起こらない。

このように、マネージャーと起業家は、水と油の関係だが、この二つの人格を協力させることができれば、事業は、大きな成功を生むのである。


「職人」の人格

職人は、自分で手を動かすことが大好きな人間である。「きちんとやりたければ、他人に任せず自分でやる」、これが職人の信条である。

職人にとって、仕事の目的は重要ではない。手を動かして、モノを作り、その結果として目的が達成されれば満足なのだ。

モノに触れて、作ることが大好きで、決められた手順に従って仕事をしている時に、幸せを感じるのである。

このように、職人は考えることが嫌いだ。そのため、難解な理論や抽象的な概念に対しては、仕事の邪魔にしかならず、「どうすればいいいか?」さえ判れば、十分なのである。

そして、スモールビジネスの経営者の多くが、この職人タイプなのである。

職人の仕事は、とても大切ではあるが、職人にとっては、起業家やマネージャーは、自分の邪魔をするだけの何者でもないという意識で見る。

本当なら、起業家が新しい仕事を考えて、職人がそれを実現させるという役割分担が成り立つのだが、実際は、職人は起業家の言うことをなかなか聞かない。

また、職人は、マネージャーが大嫌いだ。

なぜなら、マネージャーは、職人を管理し、仕事での個性を否定するからである。

マネージャーにとって、仕事とは、小さな結果を積み重ねたものであり、名人芸は必要ないのである。職人が、どんなに名人芸をしようとも、マネージャーにとって、その仕事は、単なる部品にしか過ぎない。

そして、このようなマネージャーの態度に、プライドの高い職人は我慢できないのである。

たいていの場合、職人とマネージャーの二人の意見は一致しない。

しかし、最大のトラブルの原因は、起業家が会社に持ち込む変化であるという嘘認において、二人とも同意するのである。

そして、優れた経営者は、この「起業家」、「マネージャー」、「職人」という合い交わらない三つの人格をバランスよく持ち合わせており、これらをバランスよく使って、驚くような成果を生むのだ。


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2014年4月26日土曜日

スモールビジネスは、なぜ、成功しないのか?(4) 「起業家像のワナにはまったサラ」

スモールビジネスは、なぜ、成功しないのか?(4)
「起業家像のワナにはまったサラ」




私が初めてサラに会ったのは、彼女が自分の店を始めてから3年が経った頃だった。

サラは子供の頃、一緒に住んでいたおばさんからパイの作り方を教わったのがきっかけで、パイ作りの達人になり、パイの専門店を開業した。

しかし、残念なことに、私と初めて会った頃のサラは、いわゆるエネルギッシュな起業家ではなかった。それどころか、店の経営にぐったりと疲れている様子だった。

彼女から、店の事で相談に乗って欲しいとの連絡を受けて、初めて店を訪問した時の事である。

まだ、朝の開店前の時間だというのに、彼女はとても疲れている様子で、こう切り出した。

「店を始めてから3年が経つけど、こんなに長い3年はなかったわ。お店を経営することが嫌なだけじゃないのよ。パイを焼くことさえ、もう、嫌になってしまったの。

今朝は、2時に起きて3時からここで準備していたの。それからパイを焼いて、時間通りにお店を開けて、お客さんの対応をして、掃除をして、お店を閉めたわ。

でも、その後に仕入れに行かなきゃならないし、レジの現金も勘定して、銀行にも行かなきゃならない。

それから、夕食をとって、明日のためにパイの仕込みをするのよ。これだけやっているうちに、もう夜の9時とか10時になっちゃうわ。

誰かに雇われている時なら、これだけ頑張ったら、「今日も一日、よく頑張りましたね。ありがとう。お疲れ様でした。」と言われるとこよ。

でも、私には、そんなことを言ってくれる人がいないのが普通だし、この後、テーブルに向って来月の家賃や資金繰りをどうしようかって考えなくちゃならないの。

こうなったのも、親友が「サラ、あなたのパイはこんなに美味しいのに、お店を出さないのは、もったいないわ!」という言葉を信じてしまったからなのよ。

私は、その頃、職場に不満を感じていたから、お店を開くことが、とても素敵な考えに思えたの。

お店を開店すれば、自由が手に入ると思ったし、大好きなことを仕事にできるとも思った。

それに、嫌な上司はいないし、誰からも指図を受けづに働けると信じたの。

でも、そんなことは・・・ 。 今は、私は、何一つ、報われることがないの。全てが、私の甘い考えから始まった妄想だったの・・・ 。」

サラは、そう言うと、何かを思い出したように遠くを見つめ、激しく泣き始めた。

しばらく時間が流れた後に、サラは深いため息をついて、「これから、どうすればいいのかしら。」と、つぶやくように言った。

私に訊くような口ぶりではなかった。きっと、自分自身に問いかけていたのだろう。

サラの店は、小さいながらも瀟洒なつくりになっていた。床には最高のオーク材が使われ、オーブンも最高のものが据え付けられていた。

洒落た内装にも、相当なお金をかけていたのだろう。結果として、サラは手持ちの資金を使い果たしただけでなく、多額の借金も負っていた。

それだけでなく、毎日の雑用に追われて、体力的にも限界を迎えていた。

サラは、このような状況に対して、手のほどこしようがないことに気づいていた。

2014年4月25日金曜日

スモールビジネスは、なぜ、成功しないのか?(3) 「スモールビジネスで必ず陥るワナ」

スモールビジネスは、
なぜ、成功しないのか?(3)

「スモールビジネスで必ず陥るワナ」




起業熱にうなされている人達は、必ずと言ってよいほど、誤った「妄想」を信じてしまう。


実は、後に、彼らが苦難の道を歩むことになるのは、この「妄想」が致命的に間違っているからなのである。

これは、高度な専門知識を持って、その道のプロだと自負している人ほど、起業を考える時に、必ずといってよい程、陥るワナである。

致命的な妄想とは、「事業の中心となる専門的な能力があれば、事業を経営する能力は、十分に備わっている」という妄想である。

私が、この妄想が致命的だと言うのは、この妄想が妄想以外の何物でもないからだ。

事業の中で専門的な仕事をこなすことと、その能力を生かして事業を経営することは、全く別問題である。

それにも関わらず、多くの起業家は、会社を経営するという面を見落としたまま、スモールビジネスを始めてしまう。

こうやって、医者や行政書士や税理士は、自営業を始め、美容師は美容院を開く。プログラマーはソフトハウスの仕事を始め、ミュージシャンは、楽器店や音楽教室を開く。

彼らは専門的な知識さえもっていれば、その分野で事業を始めるのに十分な資格があると信じているのだろう。

しかし、いざ起業してみると、帳簿をつけたり、人を雇ったりと、これまでに無いような仕事が次々とわき出してくる。

たいていの起業家は、予想もしなかった仕事に追われて、本業に手が回らなくなってしまうのである。

起業熱にうなされている高い専門能力をもつ人達にとって、独立は他人のために働くという苦痛から解放されることを意味していた。

それにもかかわらず、前提となる条件が致命的な妄想と言える程、間違えているために、彼らは自由になるどころか、自分が始めた事業に苦しめられるようになってしまうのである。


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2014年4月24日木曜日

スモールビジネスは、 なぜ、成功しないのか?(2) 「起業家の神話」マイケル・E・ガーバーより

スモールビジネスは、
なぜ、成功しないのか?(2)

「起業家の神話」マイケル・E・ガーバーより





テレビや雑誌などを通じて、華やかな起業家のサクセスストーリーが紹介されるにしたがって、起業家のイメージは、あまりにも美化されてしまったように思う。

このことを私は「起業家の神話」と呼んでいる。

私は二十年に渡って、多数のスモールビジネスの経営者と出会ったが、本当に起業家と呼べるような人物は、ほんの一握りにすぎないというのが実感である。

とは言え、彼らは全員、リスクを冒してまでも、大きな夢を達成しようとしたことに間違えはない。

実際に自分の事業を立ち上げたのである。しかし、今となっては、高い理想を掲げていた頃の自分は、どこへ行ってしまったのか?

この疑問への答えは、とても簡単だ。彼らに宿った起業家精神は、ほんの一瞬だったのである。

起業家精神は、一瞬で失われ、ほとんどの場合、二度と取り戻されることはなかったのである。

残念なことに、多くの人が美化されたサクセスストーリーに騙された結果、財産を失い、人生を棒に振ってしまう。

私が「起業家の神話」と呼んでいるように、いまだに多くの人は、起業家こそがスモールビジネスを立ち上げるという、根拠のない幻想にまどわされているように思う。

しかし、その神話は幻想にすぎないのである。

それでは、いったいどんな人たちが、スモールビジネスを立ち上げているのだろうか?


「起業熱から全てが始まる」

根拠のない幻想に騙されないためには、事業を立ち上げようとする人たちをじっくりと観察してみなければならない。

その時、大切なことは、事業を立ち上げた後ではなく、立ち上げる前にじっくりと観察することである。

彼らは、事業を立ち上げる前にどんな仕事をしていたのだろうか?

普通なら、誰かの部下として働いているだろう。そして、専門性の高い仕事をしていることが多い。

たとえば、医者や行政書士や税理士などの士業、エンジュニア、美容師、大工、デザイナーと、いろいろな種類の仕事が考えられるが、きっと、その道のプロとして自負をもっているに違いない。でも、誰かの部下として働いていることには変わりはない。

そんな彼らが、ある日、突然、起業熱に取りつかれてしまうのである。

起業熱に取りつかれる前の彼らは、心の中で、「何のために、この仕事をやっているのか? どうしてあんな上司のために働いているのだろう? この仕事のことなら、上司に負けないぐらい知っている。 自分がいないと、この会社は立ち行かなくなるだろう。 誰だって、この仕事で一儲けできるし、自分は、この道のプロだ。」こんな心の呟きが頭から離れなくなる。

そして、その日を境に、起業熱に取りつかれ、運命は大きく変わってしまうのである。

会社や組織のルールを破ることが快感になり、独立して生き生きと仕事をする自分の姿が目に浮かぶようになる。


そして、人から指示を受けたくないし、自分だけの仕事がしたいという気持ちが、どんどん強くなって来る。


こんな起業熱が始まると、落ち着きを失い、熱を冷ますことができないまま、彼らは、起業へと突き進むことになるのである。

スモールビジネスを立ち上げる人は、ほとんどが、こんな人だ。不自然に美化されたような起業家は、現実には、存在しないのである。

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2014年4月23日水曜日

スモールビジネスは、なぜ、成功しないのか?(1) 

スモールビジネスは、
なぜ、成功しないのか?(1)




今回より、一番、ご要望の多い、起業やスモールビジネスに関連する話題にふれたいと思います。

私は、最低でも半年以上時間がかかりそうなプロジェクトのコンサルティングを行う時は、必ず、最初に個人のマインドをリセットする教育研修に2ケ月以上の時間を割いてもらっています。

その理由は、ご説明しなくても、お判り頂けると思いますが、実際、2ケ月という短い期間では、時間が足らないのですが、プロジェクトメンバーの方たちに頑張ってもらうようにしています。

教育研修では、もちろん、ドラッカー、コトラー、ポーターなどの先生達は、三種の神器のような必須条件の位置づけですので、これらの先生のエッセンスは確実に吸収して頂くのですが、それ以外にも、プロジェクトメンバーの状況にあわせて、書店で購入できる何人かの有識人の先生方の書籍を選び、そこから、必要なエッセンスを吸収して頂くようにしています。

今回から、その中の1つでもある、マイケル・E・ガーバーの「E―MYTH」について、書籍「はじめの一歩を踏み出そう」から引用しながら、起業やスモールビジネスに関連する話題にふれたいと思います。


「スモールビジネスは、なぜ、成功しないのか?」(1)
マイケル・E・ガーバーより


スモールビジネスで成功するためのノウハウを述べた物がたくさんあるのに、どうしてこれほど多くの人が起業に失敗するのだろうか?

なぜ、教訓を生かすことができないのだろうか?

ここでの話は、そんな疑問に答えるためのものである。

私は、次にあげる4つのポイントが起業に成功する条件だと考えている。このポイントを理解して上手く応用すれば、あなたのスモールビジネスはきっと成功を収めることになると思う。

しかし、このポイントを無視すれば、どれほど努力しても、どれほど資金を投入しても、あなたの会社は毎年姿を消して行く、何十万の会社と同じ運命をたどることになるだろう。

ポイント1
スモールビジネスは、情熱にあふれる起業家によって立ち上げられたものである。あなたは、こんな誤解をしていないだろうか?


しかし、実際には、起業家精神あふれる経営者などには、そうめったにお目にかかれるものではない。それにも関わらず、世間で伝えられる起業家像は、あまりにも美化されていないだろうか?

私は、この誤解こそが、スモールビジネスが高い確率で失敗する原因だと考えている。失敗の理由を知り、あなたの事業に応用することが、成功のカギとなるのだ。



ポイント2
私は決して、フランチャイズビジネスを推奨しているわけではない。しかし、実際のところ、フランチャイズ企業の方が、他の企業より、生き残る確率が高いというデーターがある。


ここでは、スモールビジネスを経営する視点から、彼らの成功要因を分析し、あなたの会社に応用する方法を紹介する。

この方法を知っているかどうかで、会社が生き残る確率も随分と変わってくるのである。


ポイント3
一流企業は名もない会社であった頃から、一流企業のような経営をしていたからこそ、一流企業になれたのである。


そう考えれば、あなたの会社も一流企業のような経営をすることで、一流企業になる可能性もある。

ここでは、私の経験から、スモールビジネスにとって、重要と思われる一流企業の経営手法を分かりやすく紹介する。



ポイント4
ここでは、「事業発展プログラム」として、成功のエッセンスを紹介する。毎日の仕事に応用できるように書き出すので、是非、あなたの会社に役立ててほしい。

2014年4月22日火曜日

ピーター.F.ドラッカー  2014年からの予見(2/2)

ピーター.F.ドラッカー 
2014年からの予見/2)


ドラッカーは、今後、グローバル化した「情報」によって世界は強固に結びつく時代が到来し、それは、まだ、誰も理解していない世界であり、この2005年以降の30年間は、非常に苦難で、苦しい時期を過ごすことになると予見しました。

そして、30年間の混迷した世界の中で、重要な役割を担う国が2国あり、一つはイギリス、そして、もう一つは、日本であり、イギリスは、ヨーロッパとアメリカを、日本はアメリカとアジアの舵取りをする責任があると主張しています。

グローバル化した「情報」は、既に世界に二つの大きな変化をもたらしています。

二つの変化とは、「保守主義」と「労働市場」の変化です。

たとえば、アメリカでは、2002年の3月に自国の鉄鋼業を保護する目的で鋼材の輸入に関税をかけましたが、グローバル化した「情報」によって世界規模で鋼材の最安値の相手が瞬時に見つかるため、同年の12月には余儀なく関税を撤廃しました。

保守の前提には情報の遮断が必須ですが、もはや、情報の遮断は不可能です。

つまり、グローバル化した情報、情報(透明性)によって行われる革命は、「保守主義」をイノベーションさせることを意味しています。

同様に、グローバル化した情報は、「労働市場」にも大きな変化をもたらします。

いままで、労働市場は、製造を主体とした企業が規模の経済性を活かして、製造コストを下げることで成長を遂げていました。つまり、「単純労働(肉体労働)」の「効率」が企業成長のカギを握っていました。

しかし、現在は、市場に製品は行き渡り、製品価格の優位性よりも、製品価値が市場の主導権を握るようになると、企業は効率よりも「効果」が重要になりました。

その結果、労働市場は、「単純労働(肉体労働)」から、「知識労働」へと需要の中心が変化し、効率よりも「効果」を求めるようになりました。

かつての日本企業は、様々な国にできるだけ多くの資産を「保有」する(規模を広げる)ことを重視し、いかに資産を増やすかに狂奔していました。

しかし、現在、最重要視すべきことは、規模を広げることではなく、効果であり、企業においては「戦略」が、企業の将来の鍵を握るようになりました。

いかに効果的に経営できるか戦略を練り、研究・開発をコントロールしていくかに知恵を絞る「知識労働」が企業の中核をなすようになりました。

事業計画を立案し、事業の設計やデザインを考え、マーケティングや研究開発に知恵を絞ること、そして、自ら手がける必要のないものを選別して、アウトソーシングすること、すなわち「戦略」を管理する経営構造の確立こそ知識労働時代の最も重要な課題となっています。

また、知識労働者が、その質を高めるには、知識労働者がチームを組むことが必要となります。

経営者は、多数の知識労働者をチームとしてまとめ、高度に細分化された専門知識を統合して機能させるために、彼らを管理・監督する能力が求められます。すなわち、経営者は、知識労働者の目となり、耳となり、口となることができる能力が必要となりました。

このように、知識社会においては、「知識を生産的にすること」が競争を可能にするただ一つの方法です。アメリカは、この方法を推し進めることにおいて、世界に一歩先んじてきましたが、その優位性はそう長く続かないと推測されています。

そして、その代役を担うが如く、その「知識を生産的にすること」で、世界のリーダーとなるのが日本であると期待されています。

しかし、現在の日本は、情報技術(知識を生産的にすること)の分野において、ひいては、「情報を基盤とした経済」への移行にひどく立ち遅れています。

東洋にいながら西洋の一部になり得たことが、日本を成功に導いた最大の要因ですが、その結果、日本は、非常にハイコストな国になってしまいました。

ハイコストな日本が生きていくためには、イノベーションと、イノベーションによって生み出される新たな価値を輸出し続けていくことが必要です。

そして、日本は、この情報技術の分野でイノベーションする術を学び、「情報を基盤とした経済」でリーダーとなることが日本が生き残る道ではないかとドラッカーは予見し、ドラッカーが日本へ送った遺言となりました。



2014年4月21日月曜日

ピーター.F.ドラッカー  2014年からの予見(1/2)

ピーター.F.ドラッカー 
2014年からの予見(1/2)



 ピーター.F.ドラッカーの予見は、10年後から現実のものになるということがよく言われています。そして、P.F.ドラッカー自身の言葉でつづられた最後の書籍が2005年に発売された「ドラッカーの遺言」です。

ドラッカーは、「ドラッカーの遺言」の中で、我々日本人に、大変重要なメッセージを送っています。そして、現在は、書籍が発表されてから、約10年の月日が経っています。

フェイスブックでは、約1ヶ月に渡り、「ドラッカーの遺言」を中心に、P.F.ドラッカーの言葉を引用して、現在、起きていることは何か? 今後、時代は、どのような方向へ向かうのか? 我々にとって必要なことは何か? といったことについてお伝えしました。

そして、そこから、今後、私たちは何をなすべきなのか? ということがある程度、見えてきたかと思います。

ブログでは、
フェイスブックでお伝えした内容をまとめ、特に重要なポイントについて、2回に渡り、お伝えしたいと思います。

ドラッカーは、2005年において、世界は今、大きな転換期を迎え、この変化は18世紀以来の3世紀ぶりの大きな変化で、この転換期は、今後30年間続くという予見をしました。

その転換期とは、経済的に言えば、「金融を基盤とした世界経済」から「情報を基盤とした世界経済」への移行期です。

2014年の現在、グローバル化が素晴らしいものとして宣伝された結果、経済において、「グローバル経済」、「トランスナショナルな経済(国家の枠組みを越えて展開する経済)」、「人・物・金・情報・時間から成り立つ従来の経済」の3種類の経済が姿を現すようになりました。

トランスナショナルな経済とは、典型的な例として「通貨」があります。通貨そのものは、グローバル化されていませんが、為替の変動を各国の中央銀行が協調して調整することからも国境を越えた政策のみが有効な経済です。

しかし、これらの3つの経済は、真の意味でグローバル化することはなく、真の意味でグローバル化したのは、それらにまつわる「情報」のみです。

グローバル化した「情報」は、言語の壁さえ乗り越えることができれば、現在は、インターネットによって簡単に手に入れることができます。

ドラッカーは、このグローバル化した「情報」によって世界は強固に結びつく時代が到来し、それは、まだ、誰も理解していない世界であり、この2005年以降の30年間は、非常に苦難で、苦しい時期を過ごすことになると言います。

そして、30年間の混迷した世界の中で、重要な役割を担う国が2国あり、一つはイギリス、そして、もう一つは、日本であり、イギリスは、ヨーロッパとアメリカを、日本はアメリカとアジアの舵取りをする責任があると主張しています。


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Shizuka Ohoka