最強の差別化「価格優位」の戦略
マイケル・E・ポーターは、企業が市場の競争環境において生き残るためには、最終的に「価格」か「差別化」のどちらかで競争優位になることが必要だと主張しました。
しかし、「価格」は、マーケティング要素の7Pの1つにしかすぎないのに、なぜ、ポーターは、わざわざ競争優位になるには、「価格」か「差別化」と2つに分けて競争優位になる方法を説明しているのでしょうか。
前回、差別化は、価格を含めて7種類の方法があると申し上げましたが、まずは、このマーケティングの7Pと競争優位の関係について見ていきましょう。
前回、申し上げましたように、マーケティングの7Pとは、
1 製品(商品+サービス)
2 価格(製品価格)
3 場所・流通(所在地、取引・製品・情報の流通)
4 プロモーション(広告・宣伝)
5 人(協力会社を含めた要員)
6 プロセス(業務プロセス)
7 物的証拠(保障と証拠)
この7つです。
ところで、競争優位は、
1 「価格」による競争優位(市場全体)
2 「差別化」による競争優位(市場内のニッチ市場)
この2つです。
ということは、大きな収益をあげたければ、企業のマーケティング戦略における優先順位は、市場全体において最安値を実現できないか?
まずは、ここに集中して行動してみる。
そして、最安値をどうしても実現できないのなら、ニッチ市場で何かで差別化してナンバーワンを目指すこととなるのです。
これは、あたりまえと言ってしまえば当たり前ですが、顧客は最小コストで最大利益を実現するために購入先を選ぶのですから、同じ商品を販売しているのなら、当然、自社が最安値を実現していなければ顧客から選ばれることはありません。
では、これらを踏まえて、この「価格優位」の戦略について見ていきましょう。
価格優位を実現するためには、まず、市場全体で今後、大きく成長する可能性のあるニッチ市場に焦点をあて、そのニッチ市場で最もよく売れている製品を探し出します。
次に、ニッチ市場で最もよく売れている製品に対する顧客の不満を調べます。
たとえば、もう少し小さい方がいい、デザインがいまいち、維持費が高い、などいろいろな顧客の不満を調べ、その解決策を探ります。
次に、ニッチ市場で最もよく売れている製品をどのように改善したら、より顧客が満足するかを調べ、その解決策を探ります。
つまり、ニッチ市場で最もよく売れている製品の「顧客の不満要因の解決策」と「顧客の満足要因の解決策」を織り込んだ模倣品(より高品質な類似品)を考案します。
ただし、価格を下げるために品質を下げても販売力に影響がないと判断した場合、低価格にすることを優先し、あくまでも市場最安値を実現します。
そして、その方法論は、模倣品をどのようにすれば、規模の経済(大量生産による低価格化)を実現して市場全体で販売できるか、その方法を探ります。
さて、ここまでで、お気づきになったと思いますが、価格優位になるには、豊富な経営資源がないとできないのです。
つまり、市場全体での価格優位とは、大手企業にしかできない戦略なのです。 そして、マイケル・E・ポーターが、なぜ、競争優位を「価格」と「差別化」の2つに分類したかと言いますと、
「価格」 = 大手企業の競争の戦略
「差別化」 = 大手ではない企業の競争の戦略
ですので、戦略を実現する時の方法論がまるで違いますので、競争優位を2つに大別しています。
以前、小規模企業の経営は変化が激しく業務も複雑で難しいが、大手企業はそれほどでもないと申し上げましたが、こういった理由があるのです。
つまり、ニッチ市場でよく売れる製品の模倣品を規模の経済によって低価格化し、マーケット全体で売れるようにすることが大手企業の競争戦略で、初期の段階では、これ以外の戦略はないのです。
ですから、基本的に7Pのうちの「価格」による差別化以外をゼロから考えることは殆どありませんし、ニッチ市場に参入することもありません。
たとえば、事例としてお菓子の業界が典型的な業界ですが、北海道帯広市に六花亭という美味しいお菓子屋さんがあり、そこの「マルセイバターサンド」というレーズンとレアチーズのようなクリームをバターで焼いた厚目のクッキーで挟んだお菓子があります。
とても美味しいのですが、少々お値段が・・・、というタイプのお菓子です。
このお菓子を大手企業が規模の経済を使って、競争にならないくらい安い価格で模倣品を大量に作って販売しています。
ただ、お菓子の場合、所詮、模倣品では本物の足元にも及ばず、品質では勝てませんが、本物を食べたことがない人には、やはり美味しく、気になる味なのです。
このように大手企業の競争戦略は、初期の状態では「差別化」では勝てないニッチ市場を切り捨て、市場全体で模倣品による「価格優位」の戦略だけを行います。
ところで、小規模事業所の場合、上述のような市場全体では、模倣できない「差別化」によって、そのニッチ市場を独占することが可能ですが、そうではない業種の方が多いのが現実です。
たとえば、スーパー、コンビニ、歯医者、書店などは典型的な例で、やはり、同じような製品と価格で同一地域の顧客を奪い合う競争です。
では、次回は、このように価格競争ができそうにない競争環境での競争優位の方法について見ていきましょう。
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